損害の算定


金銭賠償の原則


 被害者が交通事故により被った損害は、すべて金銭に換算して賠償することになります。
 その際、被害者の死亡または負傷の別、負傷の場合はケガの程度、入院・通院日数、被害者が事故に遭う前に得ていた収入額、休業日数、後遺症の有無や等級などが基礎的なデータとなります。
 その上で、損害賠償額を算定する基準に照らし合わせ、金額に換算することになりますが、損害賠償額を算定する

基準には、

1 自賠責の基準

2 保険会社の基準

3 弁護士会(裁判所)の基準

の3種類があり、どの基準で算定するかにより金額に大きな差が生じます。


自動車の保険制度と損害賠償額の算定基準

 


 まず、自動車の保険制度を理解する必要があります。
 自動車の保険制度は、加入が義務づけられている自賠責保険と任意保険とに分かれます。

自賠責保険

 自賠責保険は自動車の運行により人身事故を起こした加害者が負う責任(運行供用者責任)が無過失責任とされていること、被害者が加害者の加入する自賠責保険会社に対し、損害賠償額の請求を行うことが認められていること(被害者請求)、被害者の過失も7割未満では減額の対象にならないなど実効性が確保されていますが、支払限度額が被害者1名につき、傷害の場合は120万円、後遺症を残した場合は等級に応じ4000万円〜75万円、死亡の場合は3000万円とされているため、被害者の被った損害額が支払限度額を超える場合には、自賠責保険では十分な賠償を受けることができません。
 また、自賠責保険は人身損害を対象とするものですので、眼鏡やコンタクトレンズなど一部を除き、物損(自動車の修理費など)は対象外です。

任意保険

 任意保険は、自賠責保険の超過額を担保するもので、契約上定められた事故の発生により、被保険者(加害者)が第三者に対し負う損害を填補する賠償保険と、被保険者自身が急激かつ偶然な外来の事故により身体に傷害を負ったときに保険金が支払われる傷害保険とがあります。
 賠償保険は、対人賠償保険対物賠償保険に分けられます。
 傷害保険は、自損事故保険搭乗者傷害保険人身傷害補償保険無保険検車傷害保険などがあります。
 これらの組み合わせなどにより、さまざまな自動車保険が用意されています。
 その他、損保会社により多種多様な特約が用意されており、被保険者のニーズに応えられる仕組みができています。
 他方、保険金が支払われない場合(免責)も数多くあり、任意保険はとても複雑な商品となっています。

実際の運用

 このように、自賠責保険と任意保険とは、別の保険ですが、加害者が自賠責保険と任意保険(対人賠償保険)の両方に加入している場合には、実務上は、任意保険会社が請求者(被保険者または被害者)に対し、自賠責保険分も含めて一括して支払い(一括払い)、任意保険会社は、一括払いをする前提として、一定の損害調査を自賠責損害調査事務所に依頼し、その確認を行うということが行われています(事前認定)。また、任意保険の対人賠償保険には、示談代行特約が付されていることが多いため、任意保険会社は、被害者に示談金の提示をすることが多く行われています。
 また、治療費や休業損害などの(一部)については、終局的な示談に至らなくても、金銭が支払われる内払いが広く行われています。
 加害者が自賠責保険のみしか加入していない場合には、所定の手続を経た上で、自賠責保険の支払基準に従って支払われることになります。自賠責保険の請求は、被害者に支払をした加害者(被保険者)が自賠責保険会社に保険金を請求するケース(加害者請求)と、被害者が直接加害者の加入する自賠責保険会社に損害賠償額の請求をするケース(被害者請求)とがあります。

弁護士会(裁判所)の基準

 一括払い、示談代行、内払いなどは、被害者にとっても、また、加害者にとっても便宜なのですが、自賠責の基準、任意保険の基準は、ほとんどの項目で裁判所の基準よりも低額であるといえます。
 弁護士会(裁判所)の基準は、自賠責や任意保険の基準よりも、金額としては高額であることが多いですが、解決までに時間を要すること、損害額の証明のための証拠が厳格に要求されることなど、被害者にとっての負担が大きいというデメリットもあります。
 また、端々で記述しましたが、弁護士会(裁判所)の基準は、絶対的なものではなく、実際の裁判例は、これらの基準を一応の目安としつつも、事故や被害者らの実情を踏まえ、ケースバイケースで損害額を算定しています。
 なお、「弁護士会(裁判所)の基準」と書きましたが、これは日弁連交通事故相談センター東京支部が毎年刊行している「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(赤い本)を裁判所も参考にして事件処理に当たっているという意味に過ぎません。