解雇
解雇とは、使用者(会社)の一方的な意思表示により、従業員との労働契約を解消することをいいます。つまり、会社が従業員を辞めさせる(クビにする)ことです。
法律上は、使用者には解雇の自由があり、このこと自体は現在でも変わりはありません。
しかし、日本の雇用の特性である長期雇用システム(終身雇用制)のもとにおいては、使用者の自由な解雇を認めると、労働者の雇用の安定と保護に欠けることから、裁判所の法令の解釈により、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇権を濫用したものとして無効とする」という法理(解雇権濫用法理)が確立されています。
解雇権濫用法理とは、使用者の解雇の自由を認めつつも、その解雇権の行使を厳しく制約するというもの、すなわち、従業員を簡単にはクビにはできない、ということです。
このことから、解雇は自由に行うことができるという原則は大幅に修正されています。
さらに、平成15年の労働基準法改正により、裁判例で確立された基準が明文をもって規定されました。
問題は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」とはどのような場合なのかということです。
この点は、以下のように分類して整理することがよいでしょう。
@ 労働者の資質に着目して行われる解雇
労働能力の不足、勤務成績の不良、職務不適格など、労働者の資質に問題があり、会社から求められている労務を提供することができないか、または不十分にしかできないことを理由として解雇された場合
A 労働者の行動に着目して行われる解雇
勤怠不良、協調性の欠如、不正行為・犯罪など、労働者の行動に問題があり、会社から求められている労務を提供することができないか、または不十分にしかできないことを理由として解雇された場合
B 使用者の経営上の必要に基づき、事業の縮小・整理に伴う整理解雇の場合
人員削減の必要性、解雇回避努力、被解雇者選定の合理性、解雇手続の妥当性という4要件が必要であると指摘する向きもありますが、近時の裁判例においては、これらの要件は重要ではあるものの、1つでも欠ければ整理解雇は無効となると意味での要件ではないと考える向きが有力です。
いずれの場合についても、解雇には客観的に合理的な理由が必要であり、また、解雇理由があっても、社会的に相当であると認められないときは、解雇権を濫用したものとして、解雇は無効とされます。
その判断は、各ケースに応じて、個別具体的に検討されることになりますが、同種または類似の裁判例において、どのような判断が示されているかが参考となるでしょう。ただし、裁判例はある事例に対して、その裁判で取り調べられた証拠に基づいて裁判所の判断が示されたというものですから、同種または類似とはいえ、他の事例にそのまま当てはまるものでないという認識が大切です。
以下では、@とAの各ケースについて、実際の裁判例のうち、3例をご紹介します(労働者をA、会社(使用者)をBとします)。
@ 労働者の資質(労働能力の不足・勤務成績の不良など)を理由とする解雇
●東京地裁平成11年10月15日決定、セガ・エンタープライゼス事件(労働判例No770・34ページ)
Aの解雇直前の3年間の人事考課がいずれも下位10パーセント未満であり、同人の業務遂行能力が平均的な程度に達していなかったことを認定しつつも、就業規則の「労働能力が劣り、向上の見込みがない」との解雇事由を著しく労働能力が劣り、しかも向上の見込みがない場合に限る趣旨であると限定的に解釈した上で、「人事考課は、相対評価であって、絶対評価ではないことからすると、そのことから直ちに労働能率が著しく劣り、向上の見込みがないとまでいうことはできない。(就業規則の解雇事由は)極めて限定的に解されなければならないのであって、常に相対的に考課順位の低い者の解雇を許容するものと解することはできない・・・。さらに、体系的な教育、指導を実施することによって、その労働能率の向上を図る余地もあるというべきであり、・・・いまだ、『労働能力が劣り、向上の見込みがない』ときに該当するとはいえない。」として、解雇は権利の濫用に該当し、無効としました。
●東京地裁平成13年8月10日決定、エース損害保険事件(労働判例No820・74ページ)
「長期雇用システム下で定年まで勤務を続けていくことを前提として長期にわたり勤続し続けてきた正規従業員を勤務成績・勤務態度の不良を理由として解雇する場合は、労働者に不利益が大きいこと、それまで長期間勤務を継続してきたという実績に照らして、それが単なる成績不良ではなく、企業経営や運営に現に支障・損害を生じ又は重大な損害を生じる恐れがあり、企業から排除しなければならない程度に至っていることを要し、かつ、その他、是正のため注意して反省を促したにもかかわらず、改善されないなど今後の改善の見込みもないこと、使用者の不当な人事により労働者の反発を招いたなどの労働者に宥恕すべき事情がないこと、配転や降格ができない企業事情があることなども考慮して(解雇権)濫用の有無を判断すべきである。」とした上で、BがAらに対して「他の適切な部署に配置する意思はなく、また、研修や適切な指導を行うことなく、早い段階から組織から排除することを意図して、任意に退職しなければ解雇するとして退職を迫りつつ長期にわたり自宅待機とした。以上の点にBが解雇事由と主張する事実がさして重大なものではないことを考え併せると、仮に、これが解雇事由に該当するとしても、本件解雇は解雇権の濫用として無効である。」と判断しました。
A 労働者の行動(勤怠不良、協調性の欠如など)を理由とする解雇
●最高裁昭和52年1月31日・高知放送事件(労働判例No268・17ページ)
寝過しにより2度にわたり定時ラジオニュースを放送することができなかつたアナウンサーAに対する解雇の効力が争われた事例において、会社の就業規則で定められた普通解雇事由(一、精神または身体の障害により業務に耐えられないとき。二、天災事変その他已むをえない事由のため事業の継続が不可能となったとき。三、その他、前各号に準ずる程度の已むをえない事由があるとき。」)の三号の普通解雇事由に該当するとした上で、「しかしながら、普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になるものというべきである。」と判示し、本件事故が寝過しという過失行為によって発生したものであって、悪意ないし故意によるものではないこと、通常はファックス担当者が先に起きアナウンサーを起こすことになっていたところ、1度目の事故、2度目の事故ともファックス担当者において寝過ごし、Aを起こしてニュース原稿を手渡さなかったのであり、事故発生につきAのみを責めるのは酷であること、第一、第二事故とも寝過しによる放送の空白時間はさほど長時間とはいえないこと、上告会社において早期のニュース放送の万全を期すべき何らの措置も講じていなかったことなどの事情から、解雇を無効とした下級審の判断を正当としました。
いかがですか。裁判所は、解雇が問題となる事例に対して、厳格な解釈をしていることがおわかりいただけると思います。
もっとも、現在の日本では、雇用の流動化が進んでおり、長期雇用システムを前提とした「解雇権濫用法理」が今後も変わらずに生き続けるかどうかは、注意深く見守っていく必要があるといえます。
解雇の手続
仮に、解雇が社会通念上相当と認められたとしても、解雇が正当であるためには、必要な手続を踏まなければなりません。
解雇の手続として、いわゆる解雇予告(30日前に予告をするか、それをしない場合には30日分以上の平均賃金(解雇前3ヶ月間に支払われた賃金総額をその期間の総日数で割った額)を支払うこと)が必要です。
懲戒解雇
以上は普通解雇についてですが、企業秩序に違反した従業員に対して行われる懲戒解雇には解雇予告は必要なく、もっぱら企業秩序に違反したか否かが問題となるほか、就業規則における規定(どのような場合に、懲戒解雇をすることができるか)が重要であり、手続としても、従業員に対し弁明の機会を与える必要があるとされることが一般的であるなど、普通解雇とは異なる規制があります。
退職
以上のように、解雇には厳しい制約があるため、使用者がある従業員を辞めさせたいと考えた場合には、自主退職を勧める傾向にあります。
従業員の意思で会社との雇用契約を解消することを退職といい、期間の定めがない労働契約(多くはこの形態です)にあっては、原則としていつでも退職の申し入れをすることができます。
従業員が真意で会社を辞めたいと考えている場合には法的な問題に発展することは少ないですが、そうではない場合、すなわち、従業員は会社を辞めたくないにもかかわらず、会社が従業員に対し会社を退職するように働きかけるケース(退職勧奨)では、勧奨の程度が従業員の自由な意思を奪うような程度に至ると、会社が従業員の権利を侵害したとして、損害賠償責任を負うことがあります。
雇い止め
雇い止めとは、有期労働契約(半年、1年など期間を定めた雇用契約)において、その期間満了を理由として労働契約を終了させること(つまり、労働契約の更新を拒絶すること)をいいます。
では、いつでも期間満了を理由に労働契約の更新を拒絶することができるのかが問題となります。
有期労働契約は、期間満了により契約関係が消滅しますが、裁判例では、労働契約の更新が繰り返され期間の定めがない労働契約と変わりがなかったり、また、労働者が雇用の継続について合理的な期待を持っている(そのような期待を持つことが当然であると思われる)場合には、解雇権濫用法理の考え方を及ぼすことができる(つまり、会社の更新拒絶は制限される場合がある)とされるのが一般的です。
もっとも、有期労働契約は、雇用調整として機能する場合が多いと思われ、期間の定めのない労働契約(通常の正規社員の場合)とは、自ずから合理的な差異があることも否定できず、解雇権濫用法理をそのまま適用するのではなく、要件を緩和して解釈、適用することが多いと思われます。.gif)
